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何なんだこの状況は・・・
家の庭でルーラストーンを使ったところ数km離れたカミハルムイに飛ばされている。
それ自体は大しておかしい事では無いのだが、俺達はカミハルムイの土地を踏むのはこれが初めてであることと、普通に飛来禁止区域のカミハルムイ城、城内庭園のど真ん中にいる事は説明が付かない。それに加えて謎の魔法陣の上に座り込んでいるときた。訳が分からん。
しかも、さっきルーラストーンを使った時の状態の理由は説明のしようがない。光もしないし、赤い大きな魔法陣が出るし、ぐるぐる回転しながらの瞬間移動だった。おれの苦手なあの浮遊感がないのはとてもいい事なのだが、そんな事はどうだっていい。
「あの~話聞いてる?」
ハネツキ博士が再び訪ねてくる。そう言えば本人に直接会うのも初めてだ(本や写真で見た事はあった。)
そんな事を考えていると何やら研究員達がひそひそ話し始めた。まる聞こえだが。
「おい、これはもしかして後遺症じゃないのか?」
「たしかに。まだ試作品だからな。」
「もしかして俺達の責任問題になるんじゃないのか?」
「どうしよう、エルフはともかく人間に対して国が補償してくれるだろうか?」
「もし補償してくれなかったら俺達最悪死刑だぞ!」
「ひ~!」
「落ち着け、まだ知覚障害が生じたと決まった訳じゃない。たとえば、もとから馬鹿だったのかも。」
おい!
「そうだよ、まだ移動直後でぼーっとしているだけかもしれないし。」
「まって!みんな落ち着いて!」
ハネツキ博士は続けてこう言った。
「新型ルーラストーンによる障害の発生率は0.000000000000000028%で、発生する障害は知覚障害では無く身体障害、主に体に一部が千切れるなどです。ですから、安心して下さい。」
なに平気な顔で怖い事さらっと言ってんのこの人!安心できないよ!?
「なんだ、よかった~」
「つまりもともと馬鹿なのか。」
納得するな!あと、俺はバカじゃない!・・・あ!ハルさんは!?そう言えばハルさんの姿が・・・
辺りを見回すと、後ろで横たわっているハルさんの姿を見つけた。
「ハルさ・・・」
俺がそう言う前にハネツキ博士が叫んだ。
「ハルちゃん!?」
あっけにとられている俺をよそにハネツキ博士はハルさんに駆け寄る。
「どうしたの!?大丈夫?。」
「うう、い・・・痛い・・・・・・」
「痛い!?もしかして体のどこか持って行かれたの?」
怖い・・・
「ち・・・違う・・・の、のみ、」
「蚤?のみがどうかしたの?」
「・・・飲み過ぎて頭が痛いの・・・・・・・・・。」
「・・・・・・。」
本気で心配していたハネツキ博士はあきれていた。顔が怒っているようにも見える。
「・・・ズッシード!」
博士は、重さを重くする呪文を唱えた。
「あ!頭痛が治った!」
ええ!?ホイミじゃないんだから痛みは消えないでしょ!?しかも重くすつする呪文で直すなんて聞いた事がない!
「なんでズッシードで治ったの博士?」
「呆れたわよハルちゃん。朝からお酒飲み過ぎなんて。」
「すいません。」
「治った理由は、血行にあるのよ。」
「血行?」
「お酒を飲むと頭が痛くなるのはお酒の中に含まれているアルコールが血行を良くして脳内の毛細血管が太くなり、広がった血管が神経を圧迫する事で痛みを感じる事からなの・・・・・・たしか。」
「たし・・・」
「それで、ズッシードをかけて体を重くし、血液の巡りを悪くすることで頭痛を治したのよ。民間療法では大量の水分(アルコールを含まない)を摂取して血液中のアルコール濃度を薄くすることで何とかなるらしいわ。」
アバウトだな・・・
「でも血行を悪くして健康に害がないの博士?」
「さあ?私は魔障研究が専門だし、医療知識はほとんどないから・・・」
「ホイミ!」
ハルさんは顔を青くして急いで自分に回復呪文を唱えた。ハネツキ博士のやる事は藪医者と何ら変わりないな。
「そうよハルちゃん。この人誰?」
博士は俺を指さしながらハルさんに聞いた。
「そっか、博士は知らないもんね。紹介しましょう、私の未来の旦那、アテンで~す☆」
静まり返る・・・
この人のは爆発(爆弾発言)が大好きだな。
「へ、へ~そ、そうなんだ。よろしく、ハルちゃんの旦那さん・・・(仮)」
「よろしくお願いします・・・」
気まずい。
そこへ、老人エルフがやってきた。このカミハルムイを納めるエルトナ唯一の王様、ニコロイ王だ。
「ニコロイ様!どうしてここに!?」
博士は驚いて聞く。
「何やら庭が騒がしいから見に来たんだ。」
「すいません!」
「いや、いいのだ、ハネツキよ。わしもにぎやかなのは嫌いでは無い。」
「ありがとうございます!そうです、ニコロイ様。この前頼まれたルーラストーンの改良、ただ今終わりました!」
そう言ってハネツキ博士はあの怪しいルーラストーンを王に渡した。
「うむ、確かに受け取った。ご苦労だったなハネツキ。」
「いえいえ、これくらいなんてことないですよ。」
「実験?何それ?」
ハルさんが尋ねる。
「ごめんねハルちゃん。実はさっきのルーラストーンは試作品だったの。」
「どういうこと?」
「さっき言ったとうり、私はニコロイ様からルーラストーンの改良を頼まれていたの。それで、完成したから起動実験をしなきゃいけなくて、失敗してもしもの事があったらと思い誰も協力してくれなかったの。そこで何も知らないハルちゃんにカミハルムイへ来てとお願いして、移動してもらったら実験結果が出るでしょ。それが狙い。」
「・・・じゃあ私、かなり危険な状態だったんですか?もしかして・・・」
「そんなことないわ。たぶん・・・」
それって俺も危ないじゃん!
「博士!やるならやると先に行って下さいよ!私がどうなってもいいんですか!?」
「大丈夫よ、だってさっきもいったように失敗の確率は0.000000000000000028%だから。」
「0%じゃないなら失敗します!」
「限りなくゼロに近いから安心でしょ?」
「じゃあ、博士が試せば良かったじゃないですか!」
「うっ・・・・・・。」
「ハルさん、そんなに攻め無くても・・・」
「うるさい!私はアテンにもしもの事があったらと思うと・・・」
「ハルさん・・・」
「熱いね~お二人さん」
「もう、博士の事なんか知りません!」
あ~あ、怒らせた。
「ところで旦那さん。あなたは何しに来たの?奥さんの付き添い?」
「え~と、まあ、そんなところです。」
「嘘でしょ。」
「え!?」
「付き添いなんかじゃないでしょ。」
「どうしてそんなこと・・・」
「科学者の勘。」
物事に真理を追究するはずの学者が勘で物事を考えちゃだめでしょう。
「そうね~私の思うところ・・・おおかたハルちゃんの正体でも突き止めに来たんじゃない?」
恐ろしいほど鋭い勘だな。
「教えてあげよっか?」
え!
「あなたの奥さんは・・・」
「ハルさんは・・・?」
「世界魔障管理委員会、研究開発部、副研究長よ。」
は?・・・世界何とか委員会、研究・・・部、副研究長?ぜんぜん覚えられなかった。
「やっぱりキミはバカなのかもね。これくらい覚えようよ。」
「違います!余計な御世話です。」
「世界魔障管理委員会ってのはアストルティアに昔から存在している魔障を管理してその脅威から人々を救うのが仕事よ。国際組織でもかなり大きい・・・いや、世界一の巨大組織かも。」
「世界一なら、なんで俺達が知らないんですか?」
「裏かたの組織なのよ。」
「裏組織!?まさか悪の秘密結社!?」
「あのね~キミ、裏組織=悪の秘密結社ってのは思考回路が壊れてると思うよ。」
この人は人を怒らせるのが得意中の得意らしい。
「裏ってのが全て悪い訳じゃないの。あくまで表舞台に立たないだけ。私達が表に出たら世界中が恐怖で混乱してしまうから民間人には明かされないまま活動しているの。世界を救う正義の組織よ。」
そう博士が言い終わると、ニコロイ王がこう言った。
「おい、ハネツキ。そのことをこ奴に教えても良いのか?」
「ニコロイ様、この人たぶん信頼できる人間です。私の勘がそう言ってます。」
「ふむ、そうか。いや、お主がいいというのならかまわないが・・・」
「すいませんニコロイ様。しかし委員長があのような動きに出て以来、委員会は混乱状態です。今は少しでも協力者を増やすことを優先したいと思います。」
「わかった。わしも各国の王に声をかけて協力者増加を考えよう。」
「本当ですか!?ありがとうございます!王直々に動いていただけるなんて。でも、危険な事は出来るだけ避けてください。今世界は少しずつおかしな方向へ向かっております。どこにも絶対安全な場所がない限りわれわれが君主を守らなければならないのですが、今はそれが難しい状況。誠に申し訳ありません。」
「なにもお主が謝らなくてもよい。引き続き委員会とルーラストーンの改良を頼んだぞ。」
「任せて下さい!必ずやり遂げて見せます!」
そう博士が言うとニコロイ王は
「任せたぞハネツキ。お主は頼りにしておるからな。」
そう言って王室へ戻っていった。
おかしな方向に向かっている?どういうことだ?
俺には魔障管理委員会の事も謎のままだ。ハルさんの正体も良く分らない。ここは聞いてみるか。
「博士、世界で今いったい何が起きているんですか?」
しかし博士は俺達に背を向けその他研究員と一緒に歩きはじめた。
「どこへ行くんですか?質問には答えてくれないんですか?博士。」
それでも博士は無言のまま歩き続ける。
仕方がないので、ハルさんに聞くことにした。
「ハルさん。俺だけこの場から置いていかれてるんですけども、教えてくれませんか?」
ハルさんの方を見るとハルさんまで考え込んでいる。
「ハルさん!聞いてますか!?」
叫ぶと、ハルさんは驚いて飛び上った。
「ちょっと!いきなり人の耳元で叫ばないでよ~。」
「ハルさんまで俺の事無視ですか?」
少し泣けてくる。
「違うよ。ちょっと考え事してただけ。」
「何をですか?」
「さっきの博士とニコロイ様の会話についてよ。世界の異変って何だろうって。」
「え!ハルさんも知らないんですか!?」
「いいじゃない別に。私にだって知らない事はあるのよ。」
「魔障管理委員会の副研究長じゃないんですか?」
「そうよ。でもホントにただの研究員と変わらないわ。委員会の深い所の散策は禁止されているの。」
「悪魔で秘密主義か・・・やっぱり悪の組織なんじゃ・・・」
そのとき遠くから
「違うわよ。」
と聞こえてきた。もちろん言ったのは博士だ。
「さて、私はこれから本部に戻らないといけないけど・・・2人ともついてくる?」


博士について城の外に出る。博士の言っていた本部とは魔障管理委員会の本部だと勝手に解釈した。
まあ、あの状況から他の本部は出てこないだろ、常識的に考えて。博士に常識があることを祈っておく。
階段を降りると左側に立派な建物が見えた。
「あれは、木工ギルド本部?」
するとハルさんが
「わ!本当だ。あれが憧れの木工ギルド!?」
「ハルさんいつから木工職人に憧れていたんですか!?」
「昔っから。ああ、早くギルドマスター「マスター・カンナ」様に会ってみたい!」
合った事も見た事もないマスター・カンナにジェラシーを感じる。
「・・・マスター・カンナって人かっこいいんですか?」
「うん。もちろんかっこいいよ♪一部の職人からは先代のギルドマスターの方が良かった何て声があるけど私はそうは思わないわ。」
「ふ、ふ~ん。ハルさんにそこまで褒めてもらえるなんてよほどイケメンなんでしょうね・・・。」
「イケメン?どういうこと?」
「え?ハルさんこそなに言ってるんですか?」
この噛みあわない会話を聞いていた博士が大きな間違いに気が付いた。
「旦那さんなんか勘違いしてるよ。カンナさんは女性だよ?」
「え・・・え~!?」
木工ギルドを恨めしそうに見ていた俺はすかさず博士の方を向く。
「アテンもしかして私がマスターに恋をしているとでも思っていたの?」
「・・・・・・・・・・・・。」
穴があったら入りたい・・・
「も~アテンったら~。私は浮気なんかしないよ。それにかっこいいのは仕事姿であって本人は美人なのよ。」
「キミはバカだな~。」
関係ないが、とある法則性を発見した。博士はどうやら普通に俺を呼ぶ時は旦那さんで、馬鹿にする時はキミで呼ぶ。って事は、最初の「君は・・・誰?」ってのも馬鹿にしていたのか?いや、キミと君(発音が違う)じゃあ違うのかも。だってあの時馬鹿にされる要素が一つもなかったし、名前が分からないからそう呼んだだけだと思う。
そんな事はさておき博士はさらにからかってくる。
「私カンナと友達だからさっきの事伝えといてあげる。どっかの男があんたに嫉妬してたってね。ぷぷっ」
「ホントにやめてください・・・今かなり落ち込んでるんですから・・・・・・。」
「そうよ博士。アテンは本気だったんだから。」
その言葉がぐさっと刺さる。本当にやめてくれ~
がっくりと肩を落としたまま博士についていく。レンジャー協会を横目に見ながらまっすぐ進んでいく。
って、このまま進むと木工ギルドじゃないか!まさか本当にカンナさんに伝えに行くのか!?
さらにがっくりと落とす。この上ない落ち込み様だ。
「どうしたのアテン?なんだか顔色が悪いよ?大丈夫?」
「いや、別に・・・」
橋を渡りいよいよ木工ギルドの目の前だ。そのまま入るのかと思いきや急に博士は左横の階段を降りはじめた。
「え?どこへ行くんですか?」
「なにを今更言ってるの?本部よ。ホント記憶力がないよねキミって人は。」
「木工ギルドに行くんじゃ・・・」
「え、なに?もしかしてカンナにさっきの事を本気で伝えると思ったの?ぶっ!」
博士はついに吹き出してしまった。このやろ~また騙しやがった。いや、俺が勝手に騙されただけだが・・・
でも、階段の先には何もない船着場(水に降りるための場所かも)があるだけで、他は何もない。まさか水の中にあるのか?魔障管理委員会本部は・・・
特に説明してくれない博士に疑問が募るばかりだ・・・・・・本気で水に潜るつもりか?
俺泳ぐの苦手なんだけど・・・
            to be continued・・・・・・