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「へ~なかなか広いのね、博士の部屋。初めて入ったわ~。」
「ま、特に何もないけどその辺適当に座って。」
なんだこの友達の部屋にはじめて遊びにきたときみたいな雰囲気は・・・
ここはカミハルムイ城ハネツキ博士の部屋。研究室が別にあることを考えるとこの部屋は博士が生活するための部屋らしい。つまり博士は城に住んでいるのか・・・いいな、そんな夢みたいな生活。
「やっぱりお城での生活は便利で快適ですか?」
「ええ、普通に生活できるくらいだけど。」
「え?豪勢な毎日じゃないんですか?」
「何を言ってるの?キミの貴族の生活に対する偏見はひどいものよね。そもそも私は二コロイ様に任命されてここにいるわけだから、貴族じゃないわ。豪勢な生活なんて研究者には必要ないし。」
確かに部屋を見回してもいたって普通の部屋だ。いや、カミハルムイ城全体がこんな作りだ。エルトナ(エルフ)自体自然との共存を大切にしているからあまり派手な生活は性に合わないのかも。
でも、世界にはとても派手でいかにもお城みたいな城が存在しているらしい。そんなところにも一度行ってみたいな。冒険者がうらやましい。
「それにしても、さっきのはさすがに驚いたわ。魔物は昔も出ていたの?博士。」
「いえ、昔は魔物なんていなかったわ。あの道は安全に通っていたもの。」
「じゅあ何で今は魔物が住み着いているんですか?」
「それがわかっていたら困らないわよ。旦那さんは少し考えてから発言してください。」
くっ、返す言葉が見当たらない・・・
「それにしてもあの魔物、どうやってあの場所へ行ったのかしら・・・」
「どういうこと?」
「あの場所は魔物が生まれるための条件がそろっていないの。つまりあの場所での自然発生は考えられない。
なのに魔物は確かにいた。」
「どこからか入ってきて住み着いたんじゃないんですか?」
「旦那さん・・・すこしだまってて。馬鹿な発言のせいでで考えがまとまらないじゃない。」
うぅ、ひどい、あんまりだ。
「そもそも、どこからあの魔物が来るのよ。」
「それは、外から・・・とか?」
「ほら、何も考えていないじゃない。あの地下道は入口が木工ギルド裏のあそこにしかないのよ。どこから入って住みつくことができるの?」
「え?その入口から・・・・・・あ、そっか!そうなると魔物は一度王都カミハルムイの中に入って来なければならないのか。」
「そう、城下町は交替で兵士が24時間体制の警備をしているから、魔物が街に侵入したら倒されるか追い返されるわ。」
「じゃあ、誰かがこっそり魔物を連れ込んだとか?」
「その線は私も一度考えたわ。」
よっしゃ!馬鹿にされなかった。って、なんだか考えがだんだんな情けなくなってきたな。馬鹿にされなければ良いって・・・
そんな考えが浮かぶなか、博士は話を続ける。
「でも、その考えにはおかしな点がある。誰が何のために魔物を運び入れたのか、どうやって魔物を誰にも気づかれずにあの地下道まで運んだのか、そして・・・・・・何故あの地下道のことを知っているのか。」
確かにそうだ。今は使われなくなった道に魔物を放したところで、特に問題は起こらない。今回はたまたま俺達が使って、ひどい目にあったわけだが・・・もし、誰かが悪意をもって魔物をあの場所へ運び入れたなら、その目的は何なんだ?
「あ~必死で逃げたらお腹がすいちゃった。久しぶりにハルちゃんの手料理が食べたいわ。」
「わかりました作ってあげましょう。でもここ、調理しようにも食材も、調理場もないんですけど・・・」
「それならお城の厨房にあるものを勝手に使ってもらって構わないわ。私が許可取ってくるから。」
「いいんですか!?。私、一度でいいからお城並に設備のそろった調理場で料理がしてみたかったんですよ!じゃあ博士、何が食べたいですか?張り切っちゃいます!」
「そうね~今は中華の気分だから红烧狮子头とか、青椒肉丝、あ、回锅肉なんかもいいわね。ハルちゃん作れる?」 
「一応全部レパートリーの中にありますけど、どれを作ればいいんですか?」
全部作れるとか、料理の達人ですか?ハルさんは。
「もちろん全部。」
「え~博士全部食べれるんですか?確かに私とアテンも食べますけど、結構量ありますよ。」
「私を甘く見るんじゃないわよ。その気になればお城の食材全部入るわ。」
「博士そんなキャラでしたっけ?」
「あ、そうそう、確か厨房にお酒がかなりあったわ。中華にはやっぱり茅台酒よね。」
「茅台酒なんて置いてあるんですか?」
「たぶんあった気がするわ。なければ適当に料理の合いそうなのをチョイスしてきて。私は許可取ってくるから。」
そういって博士は部屋を出て行った。
二人っきりになるとハルさんが独り言のようにつぶやく。
「私、本当は王都の料理が食べてみたかったな。」
「何でですか?」
「知らないの?アテン。ここの料理は世界中の料理人や舌の肥えた富裕層の人々から高く評価されるほど美味なのよ。」
そんなにおいしいんだ・・・それはぜひ食べてみたいものだ。
「でも、博士たぶん毎日食べて飽きていているから気分転換に私の料理が食べたいのかも。少し庶民の味に浸りたいとか?」
「庶民って・・・ハルさんの料理だって十分美味しいですよ!高級料理に負けないくらいに。」
「ありがとう。でも、庶民の味っていうのは悪い意味で言ったわけじゃないの。たとえばほら、母親の味というかなんというか、」
「あ、そういう意味ですか。だったらハルさんは聖母みたいな存在ですね。」
「ふふ、それは言いすぎ。変なお世辞を言っても何も出ないよ。・・・そうだ、アテンは何が食べたいのか聞いてなかったわね。何がいい?できれば中華で統一してね。」
「何でもいいですけど・・・そうだな、しいて言えば麻婆豆腐とか水餃子ですかね。」
「分かったわ。じゃあ、張り切って作りましょうか。」
「ハルさん本当に料理がすきそうですよね。」
「まあ、私の両親が亡くなってからは家事や料理は全部私がやってるからね。4人姉妹で暮らしていくには私がしっかりしなくちゃいけないから。」
「あ・・・すいません、そうでしたね。こんなこと話させちゃって。」
「何で謝るの?別に話したところで何か変わるわけじゃないから気にしないで。私、自分で言うのもなんだけどこの程度のことでへこむ程弱くないわ。」
ほんとたくましいなこの人は。
その時、扉が開いてハネツキ博士が帰ってきた。
「ただいま~。調理場自由に使っていいだって。分らないことがあったら調理場に誰かいるはずだからその人に聞いて。調理場は、ここを出て右にちょっと言ったとこにあるから。それじゃ、よろしくね。」
「任せてくださいよ。すぐに作ってきます。」
そう言ってハルさんは出て行った。
「う~ん。お腹すいてきたしハルちゃんの手料理なんて久しく食べてないから楽しみ~。」
「え、博士食べたことあるんですか?」
「もちろん。前にハルちゃんのとこいって、なんやかんやで料理対決になって、その時食べさせてもらった。」
「料理対決って・・・博士、料理なんてできるんですか?」
「失礼な!私だって料理くらい作れますーだ。まったく、旦那さんは目がないね~旦那さんにハルちゃんはもったいないわ。頼んだらもっといい男紹介したのに・・・」
「それこそ失礼極まりないじゃないですか!?それに博士だって彼氏はいるんですか?」
「・・・・・・・・・、ノーコメントで。」
逃げやがった。
「そういえば、旦那さんとハルちゃんってどうやって出会ったの?て言うかいつ頃?」
「あまり深く散策しないでくださいよ。プライバシーなんだから。」
「あらそう、だったらいいわ。ハルちゃんに聞くから。あの子口が軽いからすぐに教えてくれるでしょうし。」
「ま、ま、待ってください!ハルさんだけにだけは聞かないでください!」
「お?何か理由あり?じゃあ、旦那さんが直接教えてくれればハルちゃんには聞かないであげてもいいわ。」
少しためらいがあったが、仕方なく観念し、本当のことを話すことにした。
「・・・ハルさんが、俺と出会ったのは単なる勘違いからなんです。」
博士は驚きというよりかは不思議そうな顔をしている。
「え?・・・どういうこと?」
当然だ。いきなりこの部分だけ言われて理解できる人がいたら、その人は、悟りを開けるだろう・・・うそだけど。
「4年前、俺は故郷のレンドアからエルトナ大陸のアズランに引っ越してきました。そして、引っ越してから4~5日くらいあとになって、ある一人の女性が訪ねてきたんです。それがハルさんとの初めての出会いです。」
「へ~、そうだったんだ。でも何でハルちゃんが旦那さんの家に行くのよ。」
「今話しているんでしょうが。話の最中に止めないでください!」
「はいはい。で、何で訪ねてきたの?」
「なぜ訪ねてきたのか、その時点では理解できませんでしたよ。見ず知らずの女性がいきなり家を訪ねてくるんだから。で、話を聞くところによると俺を誰かと勘違いしてやってきたみたいなんですよね。」
「ハルちゃんらしいわね。」
「訪ねてきていきなり、『この前は妹を助けていただき本当にありがとうございます』て、言われたんですよ。」
「もしかして、その時人違いですって言わなかったの?」
「いえ、ちゃんと言いましたよ。それは俺じゃなくて別のだれかだと、それでも全然信じてくれなくて・・・」
「ああ、ハルちゃん一度決めると意地でも貫き通そうとするところがあるもんね。そこがいいところでもあり悪い所でもある。」
「で、結局折れて、認めることにしたんですよ。もちろん罪悪感がありましたけど、ハルさんみたいな美人に感謝されるのは悪い気分ではありませんでしたから。」
「なんだか重たい話になってきたわね・・・」
「博士がきいたんじゃないですか!だから聞かないでくださいっていったのに。」
「まあいいわ。で、そのあとどうなったの?」
「へ?何がですか?」
「何がですかじゃないでしょ。認めたあとどうなったかって聞いてんの。」
「いや、だからそれだけですよ。」
「え?どこがハルちゃんに聞いちゃダメなのよ。勘違いから始まった出会いでもロマンチックじゃない~。」
「なんだかちゃんとした運命じゃないからこのことは忘れたかったんです。ハルさんだってもう忘れてますよ。」
「え!ハルちゃんそんな大事なことを忘れてるの!?」
「ええ、たぶん覚えていても曖昧な記憶でしょうけど。」
これは本当のことだ。本人は全く関係のない話だからな。
「でも、勘違いも運命だったんじゃないの?ハルちゃんだって旦那さんが恩人だから好きになったわけじゃないでとおもうわ。恩人を訪ねるつもりで間違って旦那さんに出会って、そこからの恋でしょ。」
「まあ、そうなると思いますけど・・・」
「だったら胸張ってハルちゃんの旦那だって言えるくらい自信を持たなきゃだめよ。がんばってハルちゃんを幸せにしなきゃ私が許さないんだから。」
「博士・・・」
この人は、よくわからない。嫌味な人かと思っていたけど実はいい人だったみたいな感じだ。というか、こんなセリフがこの人から出るとは思ってもみなかった。
「博士は意外と恋愛とかのアドバイスが上手ですね。」
「意外ってなによ~。」
こんな人(失礼)にでも話せば楽になるもんだな。あ~なんだか体が軽い。こんなに大きな悩みだったとはおれ自身も気がついてなかった・・・軽くなった分悩みが詰め込まれていたんだろうきっと。
「何で笑ってるの?気持ち悪い~。」
はい、前言撤回。

「は~い、おまたせ~。できたわよ。」
と言って、ハルさんは大きなお盆を両手にもってはいってきた。
「红烧狮子头と、青椒肉丝と、 回锅肉と、麻婆豆腐と、麻婆豆腐。あと、炒飯とデザートに杏仁豆腐も。」
まさか今の間にそれ全部一人で作ったのか?プロのシェフ顔負けだな。
「ハルちゃん、アレを忘れてない?」
アレ?アレってな・・・あ、アレか。
「まっさか~忘れるわけないじゃないですか、私も楽しみにしてるんだから。でも、いっぺんに運べなかったんで取ってきます。」
と言って、ハルさんは再び厨房へ戻って行った。そしてすぐアレを持ってきた。
「はい、博士。茅台酒」
「おお~待ってました!それでは、ハルちゃん夫婦とハルちゃんのおいしい料理にカンパーイ!」
さっそく飲み始めやがった。どんだけ酒が好きなんだよ。
「う~ん。ハルちゃん、また料理の腕をあげたね!前食べた時よりさらに美味しくなってる!」
「またまた、博士ったらこういうときだけ調子がいいんだから。」
いや、ハルさんの料理はお世辞抜きでおいしい。これほどおいしい中華は食べた事がないほどだ。
「お酒がすすむ~!」
「博士はいつもそうじゃないですか。」
「あら、ハルちゃんだってそうじゃない。」
うん、二人ともすごい飲みっぷり。
「あれ?アテン飲まないの?」
「まあ、俺はちょっといいや。」
「な~に言ってんの旦那さん。こんな時に飲まないでいつ飲むの?今でしょ!」
「それはだめです。他人のネタです。」
もうすでに完全に酔ってる。飲むくせして酒に弱いんだなこの二人。
「あはは、アテンも飲め飲め!」
そう言いながらハルさんが無理やり飲まそうとしてくる。
「ちょ、ハルさんと博士、テンションあがりすぎですって。こんなに騒いだら苦情が出ますよ。」
閑静な夜の王都カミハルムイに響き渡る騒ぎ声。近隣住民の皆様、本当に申し訳ありません。心よりお詫び申し上げます。
しかし、こんな騒ぎとは比べ物にならないほどの騒ぎがこの後に待ち受けていようとは現時点で誰も思いもしなかった。

カミハルムイ北にある木工ギルドの裏手には、木材運搬のための場所がある。ここには世界魔障管理委員会の本部行きの転送装置が奥にある地下通路への入口が隠されていた。現在使われなくなって需要が減ったせいか、すっかり寂れてしまい、存在自体が忘れ去られようとしていた。しかし、昼間カミハルムイ城の魔障研究員であるハネツキ博士ほか2名が確かに使おうとして通路に入って行った。
その瞬間をある住民が見ていたのだ。

「あれは、確かにハネツキ博士だった。ほかの2人は見たことないけど研究員か何かだろう。あんなところに秘密の隠し階段があったなんて長年ここに住んでいるが全く知らなかった。」
そう独り言を言っているのは、いたって普通の民間人「アキグミ:エルフ(男)」。昼間、たまたまここの横を通った時に謎の地下通路へ消えていく三人を見ていた。
「これは何かありそうだな・・・もしかして、秘密の研究施設?」
昼間見たとうりに木箱をどけると、梯子があった。
「真っ暗だな・・・こんなんじゃお化けが出てきそう・・・どうしよう。やめようかな。」
彼はとても小心者のようだ。
「いや、せっかく見つけてここまで来たんだ、絶対奥に何があるのかこの目で見届けてやる!」
何も今危険を冒して入らなくてもまた明日明るくなってから再び来ればいいのだけの話だが、それは気にしないでおこう。
暗い地下通路へとランプ片手に降りていく。
「カミハルムイにこんな地下通路があったのか。王はわれわれに何か隠しているんじゃないだろうか。」
そんな疑いを持ち始めたアキグミは階段を使い、さらに下へと降りていく。
少しして、ふと彼は何かに気が付く。
「なんだあれ?もしかして・・・人!?」
彼の持つランプの光はかなり前方に人のような影をぼんやりと映している。暗いのと距離の関係ではっきりとは見えないが確かに人のような影が見える。
「しまった。人に見られてしまった。もし研究員だったら・・・いや、研究員しか知らないんだから間違いないのだが。最悪つかまってしまう。どうしよう。」
と、アキグミは困っていた。
うっすらと見えるその人の形をした何かは少しずつこちらへと近づいてくる。
「すいません!勝手に入ってしまって。入っちゃいけないなんて知らなかったんです。どうか許して下さい!」
もし、そこにいるのが人であれば、許してもらえたかもしれない。だが、アキグミに近づくその影は近づくにつれてはっきりと見えてきた。
「あれ?何か変だぞ。」
ようやくアキグミもその人影がおかしいことに気がついた。
「あ、あ、あれは、まま、魔物だ!」
そう、あの人影のようなものは昼間にハネツキ博士達を襲い、ハルさんに撃退された魔物「リビングデッド」だったのだ。
「うわー誰か!」
そう叫びながらアキグミは逃げ出した。

数分後、梯子を上り何かが地下から地上に出てきた。しかし、出てきたのは、アキグミではなかった。
真っ赤な鮮血を浴びたリビングデッド一体、それ以外いくら待とうと、もう何も出ては来なかった。
                                                    to be continued・・・・・・