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少し酔いがさめた博士がドゥラ委員長と話をしている。
「え、委員会に戻ってきてくれないんですか!?」
ハネツキ博士の言葉に、ドゥラ委員長はこう答える。
「ああ、迷惑をかけたし、引退も宣言した。もう戻る理由はない。」
「そんなのひどいですよ。私たちは委員長に戻ってきて欲しかったから必死で探したんですよ?」
「すまないと思っている。しかし、遅かれ早かれ、近いうちに引退を考えていたんだ。」
「・・・なんでですか?」
ハネツキ博士が不満そうに言う。
「自分自身の限界を感じてね。もうこの場所に自分はいらない。そんな気がしてきたんだ。」
「そんなことないです。委員長なしで今の委員会は混乱状態なんですからね?」
「それに、委員会でないからこそできる仕事があると思っている。」
「どういうことですか?」
「これからは、私は王立研究院の委員長に戻る。そして、外部から世界魔障管理委員会を補助しようと思います。」
「補助?」
「ええ、補助です。委員会に所属していないからこそ手に入れられる情報や、王立研究院での研究成果を報告して委員会が動きやすいように補助をします。そうすれば、効率も成果も上がると思います。」
「・・・・・・分かりました。委員長がそこまでおっしゃるのであれば、副委員長であるこの私、ハネツキが委員長を運営していきます。」
「これからもよろしくお願いします。」


うう、頭が割れそうだ・・・吐き気もすごい。
それが人生初の二日酔いの感想だった。宿のベッドから起き上がる気すら起きず、このまま寝ておきたいくらいだった。しかし、横になっていても気持ちが悪い。仕方がないので、外の空気を吸うことにした。
「ふぁぁーっ、眠い・・・。」
あくびをしてそうつぶやいて、この頭痛と倦怠感は睡眠不足のせいでもあるのかもと思った。
夜中まであれだけ騒げばこうなるのは当然と言えば当然なのだが・・・。
そこに初二日酔いがかさなって地獄だ・・・。
さっきから初、初、しつこく言っているのは本当に人生初だからだ。俺の年齢は現在19歳。つまり未成年だ。当然飲酒は禁止されているわけで、今まで祝い事の席などで少ししか飲んだ事がなかった。それなのに、昨日はその場の雰囲気で飲んで飲んで飲みまくって現在に至る。
もちろん、二十歳を超えたからと言って酔わないわけではないので、いずれは体験することになったのだろうが、まさかギリギリで法に触れるとは思わなかった。今まで律儀に守ってきた意味がない。
とまあ、そんなんことをいくら考えてもこのだるさは消えてくれないし、過去に戻ることもできないわけだ・・・。
とりあえず、ウルロイさんを探すことにした。ププノスさんとウェタートさんとウルロイさんと一緒に部屋で寝ていたのだが、この四人の中でウルロイさんがいち早くおき、姿を消していた。俺が起きた時、まだ二人は寝ていて、起こさないようにそーっと抜け出してきたのだ。
いったいウルロイさんはいったいどこへ行ったのだろう?たしかに、みんなほど騒いでいなかったといえども、ウルロイさんもそれなりにお酒を飲んで楽しんでいた。そもそも、アグラニの町のアクロニア鉱山で博士と倒れていた事から考えると、そんなにお酒には強くないはずだ。なぜかと言うと、博士がすぐお酒を飲むくせして、いつもかなり早い段階から酔っているように、お酒にそこまで強くないのだ。そんな博士と一緒に酔うくらいだから、ウルロイさんも同じくらいの強さだと考えれる。それに、昨日のウルロイさんの飲むペースを見ていたが、ちょびちょびと少しずつ飲んでいた。性格もあるのだろうが、お酒に強くなっから少しずつしか飲めなかったのだろう・・・きっと。
と、勝手な仮説を立ててみたが、それでウルロイさんの居場所が分かる訳じゃない。単に、暇だったから考えてみただけだ。そして、何かを考えていると頭痛を少し忘れられる。痛みが消えるわけではないものの、意識しなければ苦ではない。病は気から、というだろう?


全く見つからない・・・。
少し探せばきっと見つかるだろうと、甘い考えでだるい体を引きずりながらドルワーム中を探しまわったのだが、どこにもいなかった。
もしかして他の町に出かけたとか?いや、酔っているはずだから他の町には移動していないだろう。
他の町に移動できないほど酔っているなら宿から姿を消すわけがないし、そもそもいくら酔っていても、すでにアルコールは飛んでいるはずだ。そんな考えもできないくらいぼーっとしていた。
こんな状態で探しても見つからないだろうと諦めて、宿にもどることにした。
部屋をのぞくと、白と黒の継承者のメンバーはいた。いないのはウルロイさんだけのようだ。もちろん、女性の部屋は見ていないから何とも言えないが・・・。しかたない、もう一度探しに行くか・・・。


ウェナ諸島から、北東へ約210㎞いった場所に、トラロマーン諸島という不思議な諸島がある。
世界地図にはのっていない、見えない諸島だ。その諸島には、森と呼ぶには少し小さすぎる木の集まった場所と、緩やかな丘が一つ、その丘の上には教会が建っていて、あとは何もないほどの小さな島がある。
この島の名前はラート島。人が寄り付かないこの島は、小さいながらも美しい自然の宝庫だった。地面を四季折々の色とりどりの花が飾り、小さな森には小動物達が暮らしている。海岸には、きめ細かな砂が敷き詰められた美しい砂浜が広がり、目の前には透き通るようなコバルトブルーの海が広がっている。比較的温暖な気候のおかげで、島の周りにはサンゴ礁が形成されて、魚たちの楽園がそこにはあった。本日は快晴で、強すぎない日差しが島全体をやさしく照らしている。時折ふくそよ風は、木々の葉を揺らし、心地よい旋律を奏でている。
夜はあたりが暗く、空気がきれいなため、満点の星空を望むことができる。星降る丘は、まさに幻想的だ。
そんな豊かな自然が残っているのには理由がある。それは島の位置だ。
ラート島の周りには広大なサンゴ礁が広がっている。そのサンゴ礁のせいで、あたりが浅瀬のようになっており、船で近付くことが困難なのだ。空でも飛ばない限り、この島にたどり着く方法は一つしかない。その方法とは、干潮時に、海底に現れるサンゴでできたトンネルを通る海の道を歩いていくしかない。この海の道は、やはり周りをサンゴ礁が囲んでいるため、途中から入ることができず、ラート島から遠く離れた場所にある入口からしか入ることができない。それだけでも大変なのに、このラート島は、どの大陸からも離れた位置にある絶海の孤島で、そこまで苦労していくほどのものもないので誰も好き好んでこの島を訪れるものはいなかった。
では誰が教会をたてたのか・・・。
それは、修行に来た僧や、神父、修道女などだ。島の木や、土を乾かして作ったレンガなどで作った簡素なものだが、それで充分だった。ではなぜ、この島なのか。
昔からこの島は先ほども言ったように、位置や地形の関係で人を拒んでいるような場所だった。なので、この島は神様の行楽地だとされ、聖地として人々が修行と巡礼を兼ねてやってきたのだ。しかし、この島に入るのは非常に過酷だった。海の道は干潮時のみ歩行可能になる海底の道なのだが、人が歩けるほど潮が引いている時間はわずか2時間足らず。その時間内に入口から島まで歩ききらなければならない。もし間に合わなければ海の底に沈んでしまうことになる。かなり距離があるので普通に歩いていると到底間に合わない。そうして海にしずんていった聖職者は数えきれない。と言うよりも、命からがらたどり着いた人を数えた方が早いくらいだ。
といっても、それは昔の話だ。今はドルボードが一般層にも広まり、その気になれば誰でも海の道を渡り切ることができるようになった。しかし今でも人は寄り付かない。行く意味がないのだ。
聖職者は修行なのでドルボードは使わないし、観光目当てでもこの島には何もない。よって今でも人はめったに来ない。
島の教会には、エルフの神父がひとりで住んでいる。何もない島でまれにくる聖職者を出迎えていた。
何もない島だからこそ、煩悩を退け、神の教えのみを信じる事が出来るらしい。
「今日も世界は穏やかのようだ・・・神様のおかげです。」
そう呟いてエルフの神父は聖堂に置かれた5体の神像に祈りをささげると、神像をきれいに掃除し、一礼して聖堂をでた。今日は珍しい客が来る日なのだ。
丘を下り、海岸に出ると、すでにそこには人影があった。
「おお、神父様直々のお出迎えとは・・・恐縮です。」
黒いマントを身につけた男は、頭を下げてそういった。
「いえいえ、ここを訪れる方にはこうしておりますので。今日は、お墓参りですよね?」
「はい。そうです。」
「では、行きましょうか・・・。」
この島には、墓は少ししかない。多くの人は海の道で命を落としているので、埋葬しようにも遺体がないのが現状。なので、ほとんどの人が海の底に沈み、そのままである。まれに潮に流され、海岸に流れ着くことがあり、そういう時は神父が手厚く埋葬するのだ。
墓地は教会の裏の少し離れた場所にあり、海が一望できる最高の眺めだ。もっとも、島全体的に似たような風景が見れることと、海で亡くなった人にとって海は見ていてうれしいものではないだろう。しかし、場所が場所なので、仕方がない。
男が墓参りにやってきた女性も、この海で命を落とした。だが、この島を目指していたわけではない。海難事故にあい、たまたまこの島に流れついた。
「あれから、十数年ですね・・・。」
「ええ、あの日から今日でちょうど17年です。」
神父の脳裏にあの日、海岸に流れ着いた美しい女性の亡骸の情景がよぎる。
「さぞつらかったことでしょう・・・しかし、彼女は死者とは思えないほど幸せそうな顔をしていました。今でもはっきりと覚えております。」
「しかし、こうしてまた再会できたのですから、それだけでも不幸中の幸いです。」
「あの海難事故はひどいものだったと聞きます。乗員乗客のほとんどが助からず、行方不明者は未だに遺体すら見つかっていないとか・・・。」
「ええ、そう考えると遺体さえあれば気持ちを整理することができます。もう妻はこの世にいないんだと・・・。」
「あなたは数少ない生存者でしたね・・・。そういえば、息子さんは・・・いいえ、すいませんでし・・・」
「いえ、生きていましたよ。」
「それは本当ですか!・・・それは良かった・・・。彼女が・・・、あなたの妻がその命と引き換えに守られた命ですからね。」
そう言って、神父は墓石を悲しそうに眺めた。
「私自身、息子が生きているとは思いもしませんでした。当時2歳だった息子が妻にかばわれて、船から出たはいいが、その後行方が分かりませんでしたから。状況は絶望的でした。それでも、必ず生きていると信じ、今までずっと探していました。そして、とうとう再会することができたのです。まあ、少し変わった再会でしたが・・・。」
「それは、それは・・・。本当に良かった・・・・・・。」
「あの時、神父様が私に生きることの意味を説いていただいたおかげで今の私がいます。」
「私ではなく、神の言葉です。感謝は神にしてください。私はただ神の言葉を代弁しただけにすぎませんから。」
「それでも、あなたには感謝してもしきれないくらいです。本当にありがとうございます。」
男は深々と頭を下げた。そして、懐から花束を出し、墓石の前にそっとそなえると同時に、かがみこみ、墓石の前で手を合わせた。
「それでは、私は聖堂へ戻ります。良かったら、いらしてください。お茶でもお出ししますよ。」
「本当ですか。では、お言葉に甘えさせていただきます。」
神父はうなずき、教会へと戻って行った。
神父がいなくなると、男は墓石に抱きつき、こらえきれず泣き出した。
「・・・・・・・・・・う、うぅ・・・サシャーナ・・・もう一度・・・お前と会いたい・・・。」
ほほを伝った涙が墓石に涙が落ち、やがて染み込んで消えていった・・・。


「あ、いたいた。ウルロイさーん!」
再びある程度歩き回った後、宿に戻ると、宿の前でウルロイさんを見つけた。どうやらどこかから帰ってきたばかりのようだ。
「あれ、アテンさん。どちらへいらしてたんですか?」
「それはこっちのセリフですよ。探したんですよ?」
「それはすいません。行き先を伝えておくべきでしたね。」
ウルロイさんが謝る。
「それで、どこへ行っていたんですか?」
「駅です。」
「駅?どうして駅なんかに・・・。」
「ある人物に会っていたんです。わざわざ列車でいらしていたので、お迎えにあがったのですが、あまり時間がないそうで、用事がすむとすぐにどこかへ行かれてしまいました。」
「ある人物?」
「ええ、もしかするとアテンさんもご存知かと・・・チーム『緋色の闘士』の諜報部門最高責任者兼サブリーダのサディアスさんです。」
「ひ、緋色の闘士!?・・・しかもサディアスさんって言ったらあの最強の情報屋の!?」
「やはりご存知でしたか。」
「知らないはずないじゃないですか!緋色の闘士といえば、その実力は全世界のチームの中でもトップクラス。しかも、サディアスさんは前地上のすべての情報を網羅しているとまで言われている伝説の情報屋ですからね。あ、もしかして昨日言っていた情報屋ってもしかしてサディアスさんのことですか?」
「いえ、彼にはある情報を提供してもらっただけで、昨日言った情報屋は彼ではありません。」
「そうなんですか・・・。それにしても、よくサディアスさんから情報を入手出来ましたね。彼は気に入った相手とだけとしか取引しないうえに、情報料がとんでもなく高いということでも有名なんですよ?それでも情報の正確さと国家機密なんて目じゃないくらいの情報でも金さえ払えば手に入れられるから人気も高いんですけどね・・・。で、いくらだったんですか?情報料。」
ウルロイさんはにっこりしながらこう言った。
「タダでしたよ。」
「へえ、そんなにですか・・・高いですね・・・て、・・・え?すいません、よく聞こえなかったんですけど。」
「ですから、無料でした。」
「・・・・・・無料?」
それがかろうじて出た言葉だった。なんせ驚きで何を言っていいのかわからない。
「え?普通に頼んだら教えてくれましたよ?そんなに驚くことですか?」
「・・・ウルロイさん、あなたはいったい何者なんですか?」
「何者と言われましても、僕は『白と黒の継承者』のチームリーダで、モーモンが大好きなエルフのウルロイですが・・・。」
「いやいや、モーモン関係ないでしょ。」
「いえ、僕≒モーモンといっても過言ではありません。」
「ウルロイさん≠モーモンですよ!?さっき自分でエルフだって言ったじゃないですか!?」
「すいません、あれは冗談です。」
「どっちが!?僕≒モーモンが?それともエルフなのがですか?後者は絶対に否定しないでくださいね。」
「さて、どっちでしょうね。」
そう言って、ウルロイさんはにやにやしていた。あ、話がずれていた。
「でも、何でタダなんですか?どんなからくりが・・・。」
「からくりも何、ただ普通にエアで連絡して、ある情報が欲しいと言ったらここまで来て教えてくれたんですよ。たまたま用事で列車を使ってドルワーム駅も通過するからついでに教えてくれましたよ?」
「いやいや、彼はそんなに簡単に自分から動きませんし、ましてやついでだからと言って途中の通過駅でわざわざ降りて情報をタダで教えるなんてことしないはずですよ?」
「そうですか?彼は根はやさしい良い人ですよ?まあ、とにかくアテンさんは気にしないで寝てください。ひどい顔してますよ?」
まあ、ひどい状況なんだがな。
宿に入ると、ティシュアンさんが武器を磨いていた。この人の武器は自分の身長よりも長い大剣だ。細い太刀のような形状をした剣だ。
そうだ、この人なら何か知っているかも。
そう思い、なぜウルロイさんがサディアスさんから情報をタダで教えてもらえたのか聞いてみることにした。
「あの、ティシュアンさん。」
「あら、アテンさん。なんでしょうか?」
「さっき、ウルロイさんから聞いたんですけど、サディアスさんてご存知ですか?」
ティシュアンさんは少し考えた後、ポンと手をたたきこう言った。
「ああ、緋色の闘士のサディアスね。彼がどうかしたの?」
「えっとですね、そのサディアスさんからウルロイさんが無償で情報を譲り受けたって言っていたんですよ。それってなんでなんですか?」
すると、意外な回答が返ってきた。
「なんでって・・・ウルロイの頼みだからじゃない?」
それすごいな。世界トップレベルのチームのサブリーダーで、しかも伝説の情報屋である彼がウルロイさんの頼み事だからタダで情報提供をするって言うことは・・・まじでウルロイさんは何者なんだ?
「ウルロイさんって、いったい何者なんですか?」
「え、今更そこ?」
「はい。」
「ウルロイは私たち白と黒の継承者のチームリーダーで、白黒連合の連合長でもある・・・」
「へ?白骨連合?なんですかそれ?」
「白骨じゃなくて白黒連合はっこくれんごう白と黒の継承者わたしたちがひきている連合で、もちろんウルロイがトップよ。」
「連合ってなんですか?」
「ああ、知らないわよね。連合っていうのは、簡単にいえばチーム同士が集まった巨大なチームだと考えればいいわ。ただし、正規チームと違って、どこの国にも所属しないし、どの大使館公認でもないあくまでチーム同士が勝手にやっていることよ。」
「それって、何かいい事があるんですか?」
「うーん、何が一番いいかというと、やっぱり人数に上限がないことかな。」
「人数に上限がない?」
「実はチームには一チームに入れる人数上限が決まっていて、最大で255人まで所属できるの。でも、それ以上は無理なの。そこで編み出されたのが連合。チーム同士はいくらでも集まれるから、たとえば5チームで編成された連合の場合、255×5=1275だから1275人の所属ができるの。」
「でもそれって、メリットですか?」
「ええ、人が多ければ多いほど僕たちにはメリットがあります。」
「うわ!・・・いたんですか?ウルロイさん。」
「ああ、すいません。驚かすつもりはなかったのですが・・・」
急にウルロイさんが話に入ってきた。びっくりしたー。
「前にも言いましたが、僕たちのチームは主に情報を集めることを活動のメインにしています。ですが、世界中のあらゆる場所をまわろうとすると、人手が足りませんし、時間も多くかかってしまいます。そこで、世界中に散らばっている人たちが自分たちの視界に移るものを教えてくれるだけでもものすごい情報量です。ですので、色々なチームと手を結び、情報収集を手伝っていただいているわけです。」
「なるほど・・・でもそれって、ウルロイさんたちのメリットですよね?ほかのチームは?」
「チームによって連合に加盟している理由はまちまちですので、全部が全部そうとは言い切れませんが、無駄な戦いを避けることができます。」
「無駄な戦いを避ける?どうやって?」
「チーム単位で活動をしていると、必ずと言っていいほどチーム同士での衝突があります。もちろん、他のチームは皆敵同然ですから常に警戒していないとチームを滅ぼされてしまいます。特に小さいチームなんかは。」
たしかに、小規模チームが大規模チームにつぶされて、メンバーをほとんど吸収されてしまったという話は少なくない。
「そこで、連合です。小さなチームでも、数が集まれば大規模チームにも劣らない人数です。それに、連合に加盟する際にはチーム間での不可侵条約と安全保障条約を結びます。つまり、連合に加盟すると、加盟チームとの抗争は起こらないうえに、連合外チームとの争いごとに、連合のチームにヘルプを出して援助してもらうことができるわけです。こうして小さなチーム同士連合を作れば、味方を増やして敵を減らすことができるわけです。」
ティシュアンさんが付け加える。
「さらに、たとえば連合に強いチームがいたとしましょう。すると弱いチームが襲われた時、もしかするとその強いチームに援助してもらうのかもしれない・・・という考えを相手に浮かばせることによって、さらに争いを減らすことができます。要するに強いチームの名前を借りることができるわけです。また、一つひとつは強くないチームでも、チーム同士が協力して強い連合だというイメージを知らしめれば、自然に襲われなくなるわけです。」
なるほど、確かに強いと噂の連合に入っているチームには手を出したくないな。
「そして、大使館から受けるチームクエストを連合内で共有もできる。採取クエ、や高難易度のクエストを複数のチームで攻略することによって効率も成功確率も上がり、経験値はクエストに参加したすべてのチームに同じだけ入るから、弱いチームは強いチームに便乗して簡単に強くなることができるのも魅力の一つよ。」
「ですが、連合内にはきちんとしたルールも存在します。たとえば、先ほどのクエストについてですが、ずっとクエストも手伝わないのに、便乗だけして楽をしているとみなされた場合や、ヘルプに対して理由もなく断った場合、不可侵条約を破って連合内の他チームに攻撃や侵攻を行った場合。また、一般的に考えて法に触れるもの・・・たとえば詐欺行為や殺人などの禁止。ルールはたくさんありますが、どれも連合裁判が行われ、罰が与えられたり、連合から追放されたりと、最悪、国の軍隊につきだしたりと、厳しく取り締まっています。」
「連合裁判って何ですか?」
「その名のとおり、連合のルールに背いたものを、連合内で裁く裁判です。これは身内ないだけで済ませる程度の罪の場合です。本当に重い罪の場合、国の軍隊につきだして判断をゆだねます。そのほかにも説明し出したらきりがないくらい連合は奥が深いのですが、今は話すのをやめましょう。またアテンさんが混乱しかかっていますしね。」
はい、そのとおりです。
「それで、連合がどうかしたんですか?お二人とも。」
「アテンさんがあんたが何者か聞いてきたから、連合長だって答えていたの。」
「そう言うことでしたか。でもなぜ、今それを?」
ウルロイさんが不思議そうに聞いてきた。
「ですから、サディアスさんからタダで情報を提供してもらったのがどうしても理解できないんです。」
「何も不思議なことはないわよ、アテンさん。緋色の闘士は、白黒連合の新入りで、チームをあげてウルロイの気を引こうとしているの。だから、ウルロイの頼みは絶対に断らないわけ。」
「緋色の闘士が、新入り!?しかも、あんな強いチームがどこかの下につくなんて・・・。想像もできない。」
「僕はどのチームも平等だと思っているのですが、なぜか分かりませんが、他のチームの方々はそうは思っていないようで・・・。何とかして白と黒の継承者うちと同じ立場に上り詰めるといってきいてくれないんです。まあ、向上心はいいものなんですけどね。」
「ほ、他にはどんなチームが加盟しているんですか?」
「白黒連合に加盟しているチームは、『白と黒の継承者うち』、『精霊達の交響曲フェアリー・シンフォニー』、『太陽の調印』、『白銀の旅人』、『イ・アラジャミア』、『レラグレス探検隊』、最後に『緋色の闘士』。この7チームです。」
驚いた。どのチームも一度は聞いた事がある有名なチームだ。ますますウルロイさんが何者なのかわからなくなってきたぞ・・・
「あれ、そう言えばアテンさん。」
「なんですか?」
「なんだか顔色が優れませんね・・・。もしかして二日酔いですか?」
「ええ・・・そうです。って、ウルロイさんは違うんですか?」
そういえばウルロイさんは全然そんな雰囲気ではない。もしかして、お酒に弱いだけで二日酔いにはなりにくい体質とか?だとしたらうらやましい・・・。
「僕はどくけしそうと、めざめの花を使いましたから。あ、よければアテンさんも使いますか?さっき駅の売店で買ってきたんです。」
「ええ?ああ、じゃあ・・・。」
どういうこと?なんでどくけしそうとめざめの花で二日酔いが?というか、本当に効くのか?
と、半信半疑で使ってみると、みるみる体が軽くなっていった。え、なんで!?
不思議そうに不思議そうにしている俺を見て、ウルロイさんが説明してくれた。
「どくけしそうとめざめの花は、二日酔いによく聞くんです。アルコールは人体にとっては毒ですから、どくけしそうで打ち消すことができるんです。」
すごいな。前まで使い道がなかったから、入手したら即捨てていたよ・・・ごめんな、どくけしそう・・・。今度からは捨てずにとっておくよ。
「そして、めざめの花が目を覚ましてくれるおかげで、スッキリします。なので、二日酔いなどにはこの二つがいいんですよ。」
「はじめて知りました。ありがとうございます。」
あとで、博士とハルさんにも教えよう。
「ところで話は変わりますが、サディアスさんからいったい何の情報を提供してもらったんですか?」
そう聞くと、ウルロイさんが答えかけたその時、
「ああ、どうせあのロリババァの居場所でしょ?」
と、ティシュアンさんが答えた。何かを言いかけていたウルロイさんはあきらめて口を閉じた。
「え、ロリババァ?なんですかそれ・・・。」
「会ってみれば分かるとおもいます。アテンさんも一緒に行くんですよね?」
「どこにですか?」
「昨日ウルロイが言っていた情報屋のところ。」
「ああ、行きます。」
どうやら、ロリババァとは、情報屋の事らしい。変わった名前だな。いったいどんな人物なのか・・・。
その後、ウルロイさんにさそわれて買い物に出かけた。戻ってきたころには博士やププノスさんをはじめ、白と黒の継承者のメンバーも全員起きてきていた。予想通り、ほとんどの人が二日酔いで苦しんでいたので、先ほど買ってきた人数分のどくけしそうと、めざめの花を配った。こうも思い通りに事が進むとは思っていなかったので、ウルロイさんと顔を見合せて笑った。
博士も、どくけしそうと、めざめの花を使って二日酔いを覚ました。
「ああ、だいぶ楽になったわ。ありがとう、アテン。」
「お礼だったらウルロイさんに言ってください。買い物に誘ってくれたのはウルロイさんですから。」
「買い物?」
「いえ、こっちの話です。」
別に隠すことはないのだが、なんだか隠しておきたかった。
「さて、これから情報屋のところまで移動します。皆さん準備はいいですか?」
「はい、大丈夫です。」
「では、行きましょう。目的地は、トラロマーン諸島の、イリュジオン島です。」
どこだそれ?
      to be continued・・・・・・